ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第825回
バッファがあふれると性能が低下する爆弾を抱えるもライセンスが無料で広く普及したAGP 消え去ったI/F史
2025年05月26日 12時00分更新
消え去ったI/F史でPCIとくれば、次はAGP(Accelerated Graphics Port)ということになる。そろそろAGPのビデオカードを見たことのない世代の方もだいぶ増えたのではないだろうか?
AGPは1996年にインテルが発表した、ビデオカード専用のI/Fである。これもPCI同様IALが開発をしたものであるが、PCIと異なり標準化作業に相当するものは最後まで行なわれず、インテルがライセンスを保有した。ただそのライセンスは申請すれば無料で取得でき、ロイヤリティも掛からなかったため、広範に利用されることになった。
ちなみに標準化団体そのものはないが、AGPを普及させるためのAGP-IF(AGP Implementors Forum)という団体が1996年に発足している。
AGPは、近い将来にやってくる3Dゲームにビデオカードが対応するためには、当時のPCIだと帯域が絶対足りないという確信の下で、これに対応するためのI/Fをコストを掛けずに実現するための方策だった。
下の画像は1996年5月末に開催されたAGP Developer Conferenceにおけるスライドだが、従来のXGAサイズの2D描画と比較した場合、同じXGAサイズでも3Dで30Hz表示をするだけで10倍近い帯域が必要と考えられ、しかもその大半はテクスチャーの読み出しと想定されていた。

2D描画と比較した場合、同じXGAサイズでも3Dで30Hz表示をするだけで10倍近い帯域が必要という試算。これは当時マイクロソフトでDirector, Graphics and MultimediaのポジションだったJay Torborg氏が示したスライドだ
1996年というのは3Dfxが初代Voodooを出荷した年であり、NVIDIAはRIVA 128を設計していた(出荷は1997年)という時期で、まだ3Dゲームと言われてもユーザーからするとピンと来ない時期ではあったが、ハードウェアを開発側からすると早急になんらかの対策が必要だった。
ビデオカードに大量のVRAMを搭載するのが一番根本的な解決になるのだが、当時はまだVRAMが高価だったことや搭載量に限りがあったことなどもあり、「それほどVRAMを積まなくても3Dがそこそこの速度で動く方策」が求められた。
そこで考え出されたのがGART(Graphics Address Re-mapping Function)である。要するにPCのメインメモリーをビデオカードのメモリーの一部として割り当てようというものだが、この際に問題になったのが、ビデオカードとメインメモリーの間がピークでも133MB/秒しか出ないPCIで接続されていたことだ。

GARTの仕組み。LFBはビデオカードのLocal Frame Buffer。そこに仮想的な追加のメモリーアドレスを割り当て、そこにアクセスが来たらメインメモリー中に割り当てた領域にアクセスし、その結果をビデオカードに送り出す
ちなみにRIVA 128の場合は、4MBのSGRAMと128bitバスを100MHz駆動で接続していたので、メモリー帯域は1.6GB/秒ほどになる。これの代替として133MB/秒のバスでつながったメモリーを利用する、というのはいくらなんでもギャップが大きすぎた。そこで、「もっと高速なビデオカード専用バスを開発して、これを使ってPCに接続すればGARTの方式で行けるのでは?」と考えたわけだ。

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