街中を埋め尽くすサイネージの舞台裏 専業メーカーimpactTVに聞いた
すごいぞ!サイネージ 広告から店頭営業までカバーする業務用端末の世界
スーパーやコンビニ、ドラッグストアの棚で見かけるデジタルサイネージ。商品棚に設置され、CMやPOP広告を出してくれる「あれ」だ。すごい進化を遂げていたサイネージの最新動向とネットワークサイネージの可能性、そして同社が利用するIoTプラットフォームSORACOMのメリットについてデジタルサイネージの専業メーカーのimpactTVの2人に聞いてきた。
小型サイネージをいち早く投入 小売現場の店頭を変えてきたimpactTV
impactTVは1997年に日本初の超小型デジタルサイネージの販売を開始して以来20年に渡って店舗・店頭の活性化を支援してきた。累積の導入企業は1500社、出荷台数は217万台を超える。「店舗の棚前にあるサイネージの2台に1台は弊社製です」(インパクトホールディングス 関 篤志氏)とのことで、小型サイネージ市場では圧倒的に高いシェアを誇る。
その競争力の源泉は、顧客の声を活かしたものづくりだ。「技術先行型で新しい製品を提案するというより、お客さまの課題をコモディティ化された技術を組み合わせてリーズナブルに解決していくのが得意な会社です」と関氏は語る。海外の製造元と緊密に連携し、大手メーカーに比べて、開発も早く、コストも安価。小ロットから納品できるのも魅力的だ。
サイネージを実現するため、自前で民生のタブレットを調達する会社もある。ただ、常時給電させた結果としてバッテリが膨張したり、フリーズやハングアップみたいな事象も多い。「いざ動かなくなった際、ソフトが悪い、ハードが悪いとたらい回しにされて困るという声を聞きます」(関氏)。
これに対して、impactTVでは常時稼働を前提としたタブレット端末を独自開発し、ワンストップで提供している。impactTV 特機部 マネージャーの二見将樹氏は、「不具合の原因となるバッテリを使っていない端末も多いですし、フリーズやハングアップを検知できる仕組みもデバイスに組み込んでいます。業務用タブレットとして安心して使えます」とアピールする。
もう1つの強みはサイネージ開発だけではなく、小売や流通の課題をワンストップで解決できる営業・サポート体制だ。消費財メーカーや流通小売向けの販促やマーケティング、プロモーションを手がけるインパクトホールディングスのグループ会社として、グループとしての強みを活かした提案が可能。デジタルサイネージ製品の開発・販売を中心に、コンテンツ作成、データ分析、ラウンダーや推奨販売などの人材サービスまで幅広く提供できる体制が整っている。
気がつけば街中サイネージだらけ
今の店頭サイネージは単に商品CMやPOP広告を表示するだけでなく、現場の情報を収集するマーケティングツールでもある。「カメラを搭載していますので、手に取ってくれたのは、男性か、女性か、年齢、視聴時間はどれくらいかなどのデータを収集し、これらのデータを分析し、どういった販促が効果的かをお客さまに提案しています」(関氏)とのこと。またデータを元に、コンテンツもターゲットごとに複数パターンを出し分けることができるという。
今までは消費財メーカーが店頭販促で利用するのがほとんどだったが、最近では流通小売チェーンや商業施設などに導入することも増えている。現場への設置を手がける二見氏によると、コーヒーチェーンやコンビニのセルフレジの前、エレベーターの待機スペース、病院の病床脇、劇場の席など設置場所もさまざま。ユニークなところではバイク便の荷箱の横に取り付ける広告用サイネージまであるという。
ショッピングモールで災害時の避難ルートを表示するサイネージや、工事現場で最新の騒音や工事の現状を挙げる電光掲示板など、広告に限らないサイネージも増えてきた。とある回転寿司チェーンでは、普段は広告を流しておき、マグロの解体ショーがあると、店内に中継を配信するようなサイネージも手がけている。
今まで紙で掲示してきた情報が、どんどんデジタルに置き換えられる時代。気がつけば街中サイネージだらけというわけだ。「サイネージは紙よりも耐用年数が長く、複数の情報を表示できるのも大きなメリットです」と二見氏は語る。
そして、人手不足やコロナ禍を経て増えているのが、通信可能なネットワークサイネージの導入。商品販促用の店頭サイネージは、もともとはオフラインで利用するものがほとんどだが、この数年で大きく伸び、impactTVでもネットワークサイネージの導入数は累計で12万台に達している。「通信費を含めてもリーズナブルに提供できるようになったという背景もあり、コロナ禍を経て、ますますニーズが拡大したイメージです」(関氏)。
人手不足とコロナ禍の影響で増えるネットワークサイネージ
ユーザーの操作に対応するインタラクティブなデバイスも増えている。たとえば、最近の飲食店でよく見かけるようになったオーダー端末のほか、ビルの利用電力量を確認するデマンドコントローラー、カメラ代わりに監視に利用できるサイネージ「みてるゾウ」などが挙げられる。
最近身近になっているのは、店頭で店員の代わりに商品を説明してくれるサイネージ。ボタンを押すと、商品の説明や利用例を紹介してくれる。「どこのメーカーも本当に人手不足で困っているので、こうしたインタラクティブなサイネージはニーズも高い。今後、生成AIを用いた機能実装も検討しています」(二見氏)。
こうしたネットワークサイネージや非サイネージはimpactTVにとって大きなビジネスチャンスだ。関氏は、「今も祖業の店頭サイネージがメインですが、それ以外の市場がどんどん拡大しています。当社でもお客さまの声を受けて、サイネージのコア技術、ナレッジを活かした新たなデバイスも開発するようになっています」と語る。
こうしたimpactTVのネットワークサイネージで利用しているのがSORACOMだ。二見氏は「店舗に無線・有線LANがないところも多いですし、サイネージのために利用させてくれるわけでもないので、ネットワークサイネージはセルラー通信での運用が多い。そして、地域ごとにつながりやすい、つながりにくいという特性があるので、NTTドコモ、KDDI、softbankといった複数のキャリアの回線を利用できるSORACOM IoT SIMが最適なんです」と語る。
さまざまなキャリアやMVNOがひしめく中、SORACOMの独自性は「かゆいところに手が届くところ」だという。「この期間だけデバイスを休止させるといった操作を、管理コンソール上から容易に行なえる。これはSORACOMならではのメリットです」と二見氏は語る。
電力を食わない電子ポスター「D-Poster」は街に風景をさらに変える
サイネージを中心に、さまざまなデバイスを手がけてきたimpactTVの最新の提案は、E-Inkを利用した「D-Poster」だ。電気を食わないという紙のメリット、書き換えが容易というデジタルのメリットをいいとこどりした新しいデジタルデバイスだ。
電子ペーパーのE-Inkを用いたimpactTVのD-Posterは、コンテンツの書き換え時にのみ電力を消費するため、コンセントのない場所でも十分運用できるのがメリットだ。「毎日1回の更新で最大15ヶ月の動作が可能」とのことで、ほぼメンテナンス不要。長期間にわたって給電せずに安定運用できる。
従来のE-Inkパネルは、液晶に比べて、色の再現性や解像度が低かったため、ポスターとして利用するには力不足だった。しかし、impactTVのD-Posterは、最新のE-Inkパネルを利用しているため、色再現性が素晴らしく、鮮やかな紙のポスターと比べてもまったく遜色がない。取材時でも「すごい!」を連発してしまった。
D-Posterのコンテンツ配信にも、SORACOM SIMを搭載したIoTゲートウェイを利用する。Wi-Fi搭載のD-Posterに対して、IoTゲートウェイを介して、コンテンツを配信するという仕組みだ。「D-Posterであれば静止画なのでデータ量も小さいのでリーズナブルに運用できます。貼り替えの手間なくコンテンツを差し替えられ、現場の負担をぐっと下げられます。当社の技術とSORACOMの通信で実現可能になった領域ですね」(二見氏)。
impactTVにとって、ソラコムは市場を切り拓くパートナーだ。「デバイスを提供していただいたり、SIMを使わせてもらうだけではなく、お客さまの依頼で小ロットからデバイスを作っているので、ソラコムのお客さまから引き合いをいただくことも多い」とのこと。リテールやスマートファクトリーなどの展示会にも共同出展しており、impactTVが狙うサイネージ以外の領域で新しい案件につながることもあるという。サイネージの未来を切り拓くさまざまな事例が今後も生まれてきそうだ。